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那須正幹「ジ エンド オブ ザ ワールド」(ポプラ社文庫)

中東で起こった戦争をきっかけに世界各地で核爆弾が爆発。避難したシェルターの中でひとり生き残った少年は(表題作)。卒園6年後に行われた幼稚園の同窓会で、だんだん全員が思い出しはじめた死んだあの子のこと(「約束」)。30年前に書かれた鮮烈な短編10篇がよみがえる。





 収録作「The End of the World」「白い種子」「お民の幽霊」「田中さんのおよめさん」「めだかはめだからしく」「たたら番子唄」「まぼろしの町」「笛」「約束」「ガラスのライオン」

 西島大介による装画と題名を見た瞬間、レジへ。
 白と黒の力強いコントラスト。帯には「警告」と赤で大きな二文字。
 廃墟の中、眦を決してすっくと立つ男の子。
 やられた・・・。

 核戦争により地上世界は死滅。主人公の少年は両親と共に地下核シェルターで生き延びている。やがて、母が、父が、放射能の影響により相次いで死ぬ。一人残された少年は自分の命もあとわずかと知る。ある日、無線の呼びかけに数百キロ離れた市の少女が応じる。彼女の「助けて」の声に動かされ、少年は死の覚悟を持ちながら地上へ出る。少年の乗り込んだ車は無人の廃墟を疾駆する。車のスピーカーから聞こえる音楽に包まれながら。

 これが表題作の概要。車の中で流れる曲はスキータ・デイヴィスの「The end of the world」。1962年のヒット曲で邦題は「この世の果てまで」。この曲は「あなたが愛してくれるのが終わったとき世界は終わったのよ」と呼びかけている。両親を失い、死の覚悟を決めて、このスローバラードに包まれながら車で疾走する少年を思うと、心がおそろしく締めつけられてくる。
 これだけでも、ぜひ読んでみてください。

 児童文学と思いながら読み進めていると、この題材!?と意外性のあるものがたくさん見つかる。
 縄文から弥生の過渡期を描いたもの(「白い種子」)や、なかなか結婚しない独身者に理想のお嫁さんが出現するファンタジー(「田中さんのおよめさん」)、明治期のたたら場が舞台のもの(「たたら番子唄」)、過去に遡行しいつの間にか昔の自分と出会ってしまうもの(「まぼろしの町」)など、歴史ものからファンタジー、SFまでその世界が幅広い。

 その中でもクラス会で6年ぶりに出会った子どもたちの会話から、恐ろしい真実が露わになってくる「約束」は怖い・・・・・・。
 この「ジ エンド オブ ザ ワールド」という短編集の元の題は「六年目のクラス会」だそうだが、この「約束」を軸にしてあったのだろう。たしかに、表題にしたくなるような面白くショッキングな作品だ。

 バラエティに富んだ世界が楽しめると書きましたが、そもそも那須さんは「ズッコケ三人組」シリーズの作者なのだ。ホラー・SF・オカルト・怪談・冒険・経済などを縦横無尽に取り込み僕たちを楽しませてくれた作者に対して、何を驚くことがあろうかと読んだ後、自分で自分にツッコミを思わず入れてしまいました。

 児童文学だからこそ、胸に突き刺さる作品が詰まっている素晴らしい本です。
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