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海外古典を読む(⑥) ヘミングウェイ『日はまた昇る』

img218.jpg 禁酒法時代のアメリカを去り、男たちはパリで〝きょうだけ〟を生きていた――。戦傷で性行為不能となったジェイクは、新進作家たちや奔放な女友だちのブレットとともに灼熱のスペインへと繰り出す。祝祭に沸くパンプローナ。濃密な情熱と血のにおいに包まれて、男たちと女は虚無感に抗いながら、新たな享楽を求めつづける・・・・・・。若き日の著者が世に示した「自堕落な世代」の矜持!

 衝撃を受けた!

 主人公は戦傷によって不能になった新聞記者。どこか超俗した視点から、周囲の世界を観察しています。すごく村上春樹に似ている――というか、村上春樹が似ているのか、それとも訳文の調子がそう意識しているのか。ともかく人生に対する諦観した視点というのが、浮き出ている作品です。

 その主人公の周囲で巻き起こる様々の騒ぎ。魔性の女ブレットをめぐる男たちの恋の鞘当て。闘牛場の熱気、さらには闘牛士とブレットの駆け落ち・・・・・・。癖のある登場人物が動き回り、緊張感のあるセリフが飛び交います。

 主人公が去勢された男性であり、男たちとの競争には加われない存在であるというところがすごいなあと思いました。まさしく語り手にふさわしい人物であり、それは闘牛場での去勢牛に重ねられた存在でもあるのでしょうか。ブレットをめぐる男どもの戦いに積極的に加わるでもなく、闘いの場に入らないその姿が僕にはそう思えました。そして最後に語り手のもとに傷心のブレットが戻ってくる場面は、この物語にどう収拾をつけるのだろうと思っていた僕をいい意味で裏切ってくれました。

 ハード・ボイルドは無感動という言葉につけられていたルビですが、ヘミングウェイの小説には一種のカッコよさが滲み出ています。セリフの掛け合いだったり、主人公の達観具合だったり。素晴らしい文体です。

 いい小説を読んだあとは、ものすごく高揚した気分になるものです。この小説のおかげでこれまで半日ぐらいものすごくハイな気分です。小説って、ほんっとうにいいものですね!という気持ちを抱いたまま、今からベッドにむかいます。今日は幸せな一日でした。
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