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海外古典を読む(⑦) アプトン・シンクレーア『百パーセント愛國者』

 ドーナツを盗み食いしたことがバレてクビになったピーター・ガッヂは大群衆の中で爆弾騒ぎに巻き込まれる。恐ろしさのあまり必死に隠れていた彼は警察に尋問されるが偶然ポケットに入っていた「赤」のビラのために過激派の社会主義者と間違われ拷問の憂き目にあう。嫌疑の晴れたピーターだったが、彼は資本家側の密偵としての仕事を与えられ、社会主義者の「陰謀」を秘密探偵に逐一報告していく。その中でピーターは百パーセントの愛国者へと変貌していくのだった。

 アメリカでの社会主義の陰謀製造を密偵の側から描く作品。物語の端々に皮肉がきいていて面白いです。爆弾陰謀のでっちあげ、牢屋での拷問、証人の買収などなど、官憲と秘密警察の非道さに怒りがこみあげます。著者のアプトン・シンクレアによればほとんどが事実に基づいたもので、その弾圧の様子は日本の歴史しか知らない僕ですが、幸徳秋水の事件などを思い起こさせ「さもありなん」と感じてしまうのでした。

 しかし、物語自体は日本のプロレタリア文学などに見られる「資本家=悪」「労働者=正義」という画一主義に陥らずそれなりに悪役の性格・環境に幾らかの配慮が与えられていたり、ユーモアある描写も行われていたり、文学・小説として読んでいて面白く作ったところが、ただの深刻主義に終らないアプトン・シンクレアの作家としての力を感じました。けっこう自分たちを客観視しながら書いているなあと思いました。

 さて、この物語は先日感想をアップした「人われを大工と呼ぶ」と同じく昭和五年に発行された新潮の世界文学全集第二期第八巻に収められています。当然、検閲もあるわけで空白になっている箇所があったり、「以下八行削除」などの記述があったりして、ここにも弾圧の一端が垣間見えてしまい余計に当時の帝国政府側への不信と社会主義者への同情心がわいてしまい、文学的効果に逆に一役買っているように現代の僕には思えました。当時の人はどういう気持ちで読んでいたのかなあ。

 女に騙されるピーター・ガッヂ、独立宣言や聖書の一節を読んでいるところを逮捕してしまう官憲など、けっこう明るく書かれているので楽しいです。このへんは笑ってしまいました。
 アプトン・シンクレアは精肉業界を摘発したタイムリーな(?)作品『ジャングル』など、ほかに代表作があるそうなので、手に入れることができたら読んでみたいと思います。
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