本日は
吾妻ひでお『失踪日記』。日本漫画家協会賞大賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞。
吾妻ひでおの
二度にわたる失踪と
アルコール中毒での入院生活を描く
ノンフィクション。
一言感想を述べるとすれば「
すごい・・・・・・」。これが実話であることにも驚くが、ここまで自らをさらけ出すことができるのがすごい。
その昔、日本文学では私小説というジャンルがあったのですが、その中でも「生活演技派」とか「破滅型」とか呼ばれる人々を彷彿とさせるお話になっています。いわば「私漫画」といったところでしょうか。
一度目は「タバコを買いに行く」といったまま失踪(本人は「取材旅行にでていた」ということにしてくださいと書いているが、今となっては
本当に取材旅行ですな)し、ホームレスの生活を送り、そして二度目の失踪時にはホームレスから
配管工になってしまうという劇的な人生を吾妻先生は歩んでおられます。しかも、その次には
アルコール中毒で入院さえしてしまいます。
ホームレス生活で
逆に健康になってしまい太って帰って家族の顰蹙を買ったとか、警察署で自分のファンである警官に出会いなぜか「
夢」という文字を添えてイラストとサインを書いたり・・・・・・・と細かなエピソードが真実味を伝えてきます。ただ、ノンフィクションとはいってもあくまでも漫画という形式もあり、本人が語るように辛いことはできるだけ排除して描いてあるので、実際の体験はもっと悲惨だったろうと思われます。
さて、僕ら一般人はどうしても芸術家に対して「夢」を持ちたい傾向があるようです。たとえば「文士」という言葉の裏に潜むイメージ、自殺、逃亡、精神病、貧乏・・・・・・わかりやすく(?)漫画の中の台詞を使えば「
リアルレジェンドが欲しかったのよ」(若杉公徳『デトロイト・メタル・シティ』より)ということではないでしょうか。その点で吾妻ひでおは失踪という実体験を持つことでファンの間に「伝説」を創りあげたのだと思います。元々がカルトというか、マニアックでコアなファンを持つ作家だっただけに、その効果も数倍に膨れ上がったのではないかと僕は感じました。
個人的にはビックリマンチョコを食う吾妻ひでおの姿に、「ああ、俺が幼稚園に通っていた頃、この方はこんなことをしていたのか」というような感慨にふけりました。失踪自体が僕が吾妻ファンになる前のできごとなので新参ファンの僕としては作中の吾妻ひでお自身が語る吾妻ひでお史なんかが興味深かったです。
これまでの作品と違って読者層が広く、わかりやすい作品なので吾妻ファンのみならずいろんな人に読んでほしい。そんな作品です。
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