久しぶりに漫画カテゴリーを更新。作品は小田ひで次
『拡散 A Diffusion Disease』。『月刊アフタヌーン』に断続的に連載されていました。
瀬下あざみは中学生になり、幼い頃住んでいた町へと戻ってきた。彼女は真っ先に、幼なじみの東部克彦に会いに行く。ところが、克彦はあざみの前に心を閉ざしたままだった。あざみは克彦が奇妙な病にかかっていることを知る。かれは「拡散」してしまうというのだ・・・・・・。
身体がバラバラにガスのように世界中に拡がり散らばってしまう・・・・・・。そこにあって、そこにない。意思もなく、ただ見るだけの存在に変化してしまう。
結局は現実から逃げ出すことが、拡散という病気なのだと思う。世界中に広がり、ただ傍観者としての存在になってしまえば、傷つくこともない。現実との闘争の仕方が、この物語に登場する主人公たちのすべてだ。藤枝はつっばることで、それをやったし、あざみは「わたしは逃げない」と宣言する。雫はされるがままから、男たちを殴り倒すようになる。しかし、克彦は結局、現実からの逃避を続ける・・・・・・。
『AKIRA』で漫画に目覚め、『寄生獣』でその奥深さに気づき、『拡散』で漫画の表現形態の幅広さを知った。僕自身にとっては、この漫画はオールタイムベストに当たる。
SFは物語に「象徴」を与えることができる素晴らしい表現形態だ。安部公房の『砂の女』などを読めば、うなずいてもらえるだろう。「拡散」という奇妙な現象が、その表層の裏に何を隠しているか。エンタテイメント性とテーマ性が濃密に絡み合った素晴らしい作品だ。
『週刊少年ジャンプ』のような雑誌を一方の極とするのであれば、『アフタヌーン』連載のこの漫画はもう一方の極であるといえるだろう。どちらも、読者を楽しませるために書かれたものではあるが、一つはエンタテイメント性を極めようとし、もう一つの極はマニアックで、先鋭的な極みを目指しているといえる。小田ひで次はもちろん後者に属していて、オンリーワンの作家である。
癖のある画風、広範な世界観、テーマに対する作者の真剣さ。以降の小田作品も好きではあるが、この作品ほどの思い入れはない。僕にとっては一生、付き合うであろう特別な漫画です。
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