こんなに「面白い」とは予想だにしていなかった。
怪異譚であり、僕の好みの物語でした。
二本ある道筋の険しい方へと、薬売りの男を追って分け入った高野山の僧は、異様なできごとに出会い続ける。道に横たわる頭足がどこにあるとも知れぬ大蛇。蛭が雨のように大量に降り来る森。そして、山奥の一軒家に住む少年と妖艶な美女・・・。
女が僧を川へ案内し、蛭に血を吸われた痕にその手で水をかけるシーン。一糸まとわぬ姿になり、僧の後ろに回り、僧に体をひたりとくっつけるシーンなど、東洋的な官能美を感じさせる。
深山という隔絶された異世界で裸の美女と出会う。漱石の「草枕」もそうだったが、東洋画のような淡色のエロティシズムでどきつさはなく、どことなく上品な感じでよろしい。
女は色欲に捕われた男を畜生に変えてしまう妖女であることが最後に明かされ、結末を迎えるのだが、現実であるのか、それともそれを語る人物の作話ともとれないこともない語り口で、いろいろと想像の働く余地があって、それもよかった。
美しい幻想怪異譚。たいへん面白いので読んだことのない方はぜひ!
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