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SF読もうぜ(344) 筒井康隆「東海道戦争」

気が付けば、2014年が明けました。本年もよろしくお願いいたします。今年も好きなSFについて、独り言のように語っていきたいと思っております。

 筒井康隆の出世作。「SFマガジン」1965年7月号発表。中公文庫『東海道戦争』などに収録。

 SF作家である「おれ」がある朝目覚めると日本は戦争状態にあった。いったい、どことどこが戦争しているのか?
 疑念を抱きつつ、大阪のテレビ局へ向かった「おれ」。道々わかりつつあったこと。それは今日本が内戦状態にあること。東京と大阪の戦争が始まったのだ。




 作品集『東海道戦争』にて何度目になるかわからぬほどの再読。
 筒井作品の特徴である「おれ」の登場、軽薄な人々の巻き起こすドタバタ、身体損壊に代表されるエロ・グロ・ナンセンス描写、マスコミ、戦争・・・。僕の抱く「SF作家としての筒井康隆」的なイメージがここにあります。

 内容は端的にいうと「自衛隊」+「疑似イベント」。『大辞泉』によれば、疑似イベントとは「報道されることを企図して、企業などが本物らしくよそおってつくりあげる出来事や催し物。」のこと。この小説等、いわゆる「疑似イベント」を意識して書かれたものは、ブーアスティンの『幻影の時代ーマスコミが製造する事実』という書物の影響が大きいようです。大学時代に読みましたが、この書物自体がかなり面白かった記憶があります。
 初出の号には、たくさんの兵器の写真が掲載されており、かなり「リアル」な路線を紙面作りの段階で企図していたことが想像されます。写真の中には光瀬龍提供のものがあり、どれがその写真かと興味がわきます。この作品がおそらくきっかけとなり、同年の「SFマガジン」増刊号では「架空事件特集」も組まれているほどです。

 さて、作品の内容ですが、今回は話の筋も覚えておりますので、新しい試みをしてみました。それは「Google Earth」を利用して、主人公「おれ」の行く道のりをたどるというものです。
 筒井康隆は関西圏出身の作家であり、物語の発端は大阪府吹田市から始まります。そこから電車を利用して、テレビ局へまず向かうのですが、その道のりを地図でたどりながら読み進めるとこれがまた楽しいのです。「東京がどういったルートを通って大阪へ攻め込んでくるのか」「それを食い止めるために、どのように兵を配置するのか」など、地図上で場所を確認しながら読むと、なんという楽しさ。主人公が従軍し、参戦し、死ぬまでのルートに、同道している気分になれました。
 昨年、僕は夏目漱石の「草枕」の主人公と同じルートをたどっての温泉旅をしたのですが、かなりきつかったけど、作品世界の中に入ったようでかなり悦に入ることができました。なので、いつか大阪に行く機会があれば、同じルートをたどって旅してみたいですね。

 さて、2017年には二度目の東京でのオリンピックが決まりましたが、この作品が発表されたのは1965年。一度目の東京オリンピックが開催された翌年にあたります。
 「東京オリンピックは本当にあったできごとなのか?あれはテレビが作り出した現実ではなかったか?幻影ではなかったか?」
テレビ時代の世相を反映したもので、生まれた時には既にテレビが存在していた世代の僕には、わからない違和感のようなものが、この時代の感覚の鋭い人々にはあったのでしょう。今の時代にこそ、読み返すべき作品であるのかもしれません。ほかに、芸能人や作家などの拳銃所持事件や、当時流行したテレビドラマの題名などが登場していたり、その辺のことを、いちいちネットで検索してみるのも一興です。

 この作品は、筒井康隆のマンガ的な表現が開花した作品で(これ以前にも「やぶれかぶれのオロ氏」「トーチカ」「しゃっくり」などの喜劇はあるのですが)、どうやら、このころのことを記した「腹立ち半分日記」を読むかぎり、小松左京の「新趣向」という作品に対する対抗意識があったようです。
 「新趣向」は、「SFマガジン」1965年1月号に発表された作品。「今日町角で、もしもあなたが忍者や鉄人二十八号や、鉄腕アトムやゴジラを見たら?」というキャプションがつけられているもので、オチを申しますと、この宇宙はテレビの一つのチャンネルに過ぎなかったというお話なのです。引用しますと、

「おれたち――アニメーションと実写フィルムを合成することを考えたろう。やつらも――いままでの゛リアリズム宇宙史ドラマ゛にあきて――新趣向のドタバタをつくりたくなったんだろう」

ちなみに「アニメーションと実写フィルムの合成」とは、小松左京自身が参加したNHKで放映された「宇宙人ピピ」のことと思われます。「新趣向」での描写もびっくりして、柱にかじりついたりなどマンガ的な表現にあふれています。
 「東海道戦争」作中にもマンガ的な表現が度々登場し、マンガ的な身体の登場・ドタバタ(スラップスティック)の走りという意味でも、特筆しておくべき作品のように思います。

 しかし、このようなことをくだくだしく書くことはくだらない。本当に読んでいて、エキサイティングな小説というものは少ないものです。この小説は読んでいてエキサイティングです。読んでいて頭が沸騰するぐらいに興奮します。読書以上の「体験」が筒井作品には存在します。筒井康隆が体の中を通過したか否か。これはSF者にとって、というよりは、読書人にとっての大きな違いなのではないかと本気で思います。
 小説というものは、おもしろいものだ。夢中になって読むものだ。それを教えてくれる作品は、そうはないのですが、筒井作品を読むにあたっては、何度もそれを思い知らされます。この「東海道戦争」も何度読んでもその感覚をよみがえらせてくれるすばらしい作品でした。
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