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SF素人が空想科学小説に耽溺するブログ。

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SF読もうぜ(346) 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」

辛い境遇にある少年ジョバンニは、星祭の夜に親友カムパネルラとともに、銀河ステーションから旅に出る。銀河を走る鉄道旅の幻想的な美しさと生と死をめぐる悲哀を描いた物語。

 天空から何かが現れ、自分を連れ去ってくれる。そんな物語にこの頃、よく出会う。

 天気輪の柱の下で、星祭に行ったはずのカムパネルラと共に銀河ステーションから、夜空へと飛び上がるジョバンニ。父は遠洋漁業に出たまま帰って来ず、母は病で床に臥せている。活版所で働いて家計を助けている健気さを持っているが、級友たちからはからかいの対象となっている。書いているだけでなんだか泣けてきますが、それでもジョバンニの心はねじくれてはいない。そんなジョバンニを銀河を走る鉄道が夜空へ救い上げてくれる。

 ザネリを助けようと川へ落ちたカムパネルラ。銀河鉄道での旅は明らかにカムパネルラの死出の旅路を意味している。途中で出会う氷山にぶつかって沈没した舟に乗っていた青年たちは天上の世界へ召されていく。哀しい物語だけれども、不思議と救われた気分になる。それは賢治のやさしい視線もあることながら、人間よりももっと大きな存在を彼がほんとうに信じていたからなのだろう。

 幻想的な美しさもこの物語の核で、宇宙を飛ぶ白い鳥たち、真っ赤に燃える蠍の火(アンタレス)、サザンクロスの駅付近から見える風景・・・。

 ああそのときでした。見えない天の川のずうつと川下に青や橙や、もうあらゆる光でちりばめられた十字架が、まるで一本の木といふ風に川の中から立つてかがやき、その上には青じろい雲がまるい環になつて後光のやうにかかつてゐるのでした

美しい日本語と心で描かれた小説だからでしょう。

 ジョバンニは本当の「幸福」「さいはひ」とはなにかという自問自答を繰り返します。

「僕、もうあんな大きな闇の中だつてこはくない、きつとみんなのほんたうのさいはひをさがしに行く、どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行かう。」

このジョバンニの決心には心を打たれるものがあります。しかし、この決心の後にカムパネルラはいなくなり、同席の大人と話をした後、銀河鉄道もなくなり、ジョバンニはもとの野原に立っているのでした。そして、ジョバンニはその野原でこう声をかけられます。

「さあ、切符をしつかり持つておいで。お前はもう夢の鐵道の中でなしに本當の世界の火やはげしい波の中を大股にまつすぐに歩いて行かなければいけない。天の川のなかでたつた一つのほんたうのその切符を決しておまへはなくしてはいけない。」

まるで、小説はここで終わりだよ。さあ、「本当の世界」で、君は皆の「幸福」のために、「まっすぐに歩いて行かなければならない」のだよ、と言われているような気分となりました。

 とにかく、読むと心が洗われ、歪んでぼやけていた人生の軸をもう一度取り戻せた気分になる、そんな作品でした。

 明日からも、しっかり生きていこう。
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