おれの名はマリード。アラブの犯罪都市ブーダイーンの一匹狼。小づかい稼ぎに探偵仕事も引きうける。今日もロシア人の男から、行方不明の息子を捜せという依頼。それなのに、依頼人が目の前で撃ち殺されちまった!おまけになじみの性転換娼婦の失踪をきっかけに、血なまぐさい風が吹いてきた。街の秩序を脅かす犯人をつかまえなければ、おれも死人の仲間入りか。顔役に命じられて調査に乗りだしたものの、脳みそを改造した敵は、あっさりしっぽを出しちゃくれない・・・・・・実力派作家が近未来イスラーム世界を舞台に描く電脳ハードボイルドSF!
カッコイイ・・・・・・。
と思わず太字で書いてしまうほどかっこいい。サイバーパンクらしくハードボイルドにきめています。ミステリの一ジャンルとしてのハードボイルドは原尞の沢崎シリーズ以来久しく読んでいませんが、この小説を読んだ瞬間ものすごく読みたくなって本家本元のチャンドラーの『大いなる眠り』を買って参りました。とまあそんなことは置いておいて。
まず舞台のブーダイーンという特殊な場所についてやはり語らずにはいられません。SFの未来小説は多国籍性を売りにしていますが、イスラム社会におけるアルジェリア人が主人公ってのはやっぱりすごいなあ。そして、サイバーパンクな世界観がやっぱり気持ちいい。ゴチャゴチャとした街並みやアウトサイダーの雰囲気、ソケットに差し込むモディーやダディー、性転換した男たち・・・・・・。雰囲気だけでも読める小説です。翻訳もその雰囲気づくりに一役買っていて、「性転」とか「半玉」とか語感がいいですねえ。
ラストの解決具合はいまいちピンときませんでしたが、ミステリ好きに楽しめるのはネロ・ウルフが出てきたりするところではないでしょうか。これまたレックス・スタウトも久しく読んでいないのですが、久々に読みたくなってきました。他人の人格をダウンロードできるモディーはもっといろいろなキャラクターで遊んで欲しかったところもあります。一度くらいジェームズ・ボンドになって女の子にモテてみたいなあ。
この作品には続篇があるそうで、訳者あとがきには「A Fire in the Sun」と表記されています。今翻訳作品集成を見たら、早川文庫であと二作も出てるんですねえ。『太陽の炎』と『電脳砂漠』だそうです。早速手に入れて読んでみたいと思います。
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