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SF読もうぜ(273) ロバート・A・ハインライン『ヨブ』

img234.jpg いったい何が起こったんだ?平凡な牧師アレックスは動顚した、南の島で火渡りに挑戦して意識を失い――目覚めると、世界が一変していたのだ!名前はアレックに、乗っていた機船は汽船に変わっている。客室係は初めて見る美女で、なんと彼の恋人だという。だがこれは、際限なく続く次元転換のほんの始まりにすぎなかった・・・・・・聖書ヨブ記に材を取り、混戦次元をさまよう男の冒険をコミカルに描く、ハインラインの話題作

 いやー、面白い。

 いわゆる多元宇宙ものなのですが、パラレルワールドを転々とするロードムービー的なところもあって楽しかったです。魅力的な伴侶と出会い、行く当てもなくただ故郷であるカンザスを目指す旅。お金が入ったと思えば次元転換が起こり、何度も何度も無一文からやり直しという、もし僕だったら自殺を考えかねない状況を信仰心の厚いアレック君は何度も乗り切っていきます。

 次元転換を何度も繰り返して少し中だるみの感もあったのですが(といっても作者のせいではなく600頁ある作品ですので僕が疲れただけです)、天国へ召されてからが実に面白かったです。管理機構としての天国経営という面が面白かったのですね。星新一の作品やSFの悪魔召還の作品に多いタイプですが、この作品も神は人間の管理職であり、更にその上にはまた違う管理職が・・・・・・というふうで、天使も俗っぽい小役人として描かれていますし、この作品全体に通じている神聖なものを涜するおかしみが一番でていたな、と思いました。

 ただ残念なのは北欧神話や聖書について自分がよく知らないということがネックになっていて、パロディの元ネタがわからない部分も度々あったことです。これは英米SFを読むときにいつも感じることなのですが、やはり一回は聖書は読まんといけんなあと思います。そもそも題名のヨブが何者かすらわからない状態でしたので。訳注がついているのはいいんですが、それで読むリズムが狂うということもありますしね(これは明治や大正の日本文学を読むときも同じですが)。

 敬虔なキリスト教徒の人が読むときっとムカっとくるとは思うのですが、僕はこういう物語が大好きです。特に宗教の矛盾を衝く部分は興味深く読んでいます。なぜかというと、僕の小中学校の時の親友がキリスト教を信仰していたのでなのですが、生まれてきて以来無神論を信仰してきた僕と彼は何度も宗教論争をしていたからです(別に喧嘩ではなく)。その中でなぜ選ばれた人だけが救われるのか、全能の神が人間を創ったのになぜ人間は不完全に生まれてきたか(それは神が人間に自由意志を与えたからだ、と彼は言った)、というような疑問が次から次へと生まれてきたからです。だから僕は神ははっきり言って嫌なやつだと内心思っていました。ハルマゲドンがもしやってきたとしたら、僕はきっと救われないに違いありません。でも、その宗教を信じている人々は心から善良であろうとしています(少なくとも僕の友人であるその人物は皆が認めるいいやつです)。

 となんだか文章の収拾がつかなくなってきましたが、楽しくて、しかもいろいろ考えるところのできる本でした。
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