すべては1984年に始まった。ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』が発表され、英米SF界に〈サイバーパンク〉の嵐が吹き荒れはじめたのだ。テクノロジーとメディアの驚異的な発展が、人間そのものを変化させてゆくという認識のもと、才能ある若手作家たちがぞくぞくとサイバーパンク運動へと参加してゆく。運動の輪はSF界以外にも広がり、今もなおホットな議論をまきおこしている。そして今、現在進行形のこのSF革命の最前線から、一冊のレポートが届けられた――ギブスン、スターリング、ベア、ラッカーらの傑作を結集したサイバーパンク・ショーケース登場!
◎
ウィリアム・ギブスン『ガーンズバック連続帯』
写真家の「ぼく」は「気流未来都市――来たらざりし明日」という企画で仕事をしているうちに、視野周辺に幻影が見えるようになる。
うーん、いいねえ。昔の人の思い描いた未来というのはなんだか明るくて好きなんですよね。特にポップなデザインのものは大好きなんだけど。押井守監督の映画に出てくるような雰囲気ですね。まあ、もちろんサイバー・パンクなんだから当たり前の話なんですが。
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トム・マドックス『スネーク・アイズ』
戦争で「スネーク」を埋め込まれたジョージ・ジョーダンは時折おそってくる動物的衝動に耐えられなかった。彼はある企業に雇われるのだが・・・・・・。
この作品集中、一番の傑作だということですが、あまり僕の好みではないですね。ただ、最後の宇宙遊泳は少し面白いなと思いました。
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パット・キャディガン『ロック・オン』
ロックンロールスター、シナーは軍艦男から逃げ出していた。しかし、若いギャング団に見つかり・・・・・・。
うーん、よくわかんない。昔と違って今はロックに対する認識も違ってしまってますしねえ。僕はそんなに幻想を抱いていないので、少し感覚的に合わないかな。
○
ルーディ・ラッカー『フーディニの物語』
一文無しのフーディニは映画会社と多額の契約を結んだ。彼は脱出不可能の状況を次々とクリアしてみせる。
軽快に進んでいくテンポのよい物語。人を食ったようなお話ですが、こういうのは好き。
○
マーク・レイドロー『ガキはわかっちゃいない』
破壊された街で少年達は自分たちの命を守っていた。巨大な敵が現われたとき、「ぼく」たちはギャルログと手を組むことに決めた。
こういう少年ものは好きです。この前、偶然『電脳コイル』というアニメを見たけれど、あれに似た雰囲気なのかな?破壊された街で生き残りをかけて戦う少年達が可愛いです。
○
ジェイムズ・パトリック・ケリー『夏至祭』
ドラッグ・アーティストのケイジはウィンを取り戻すために夏至祭であることを企むが・・・・・・。
ここまでで一番サイバー・パンクっぽいかなーと思いました。ドラッグ・カルチャー、ロックテイスト。サイバー・パンクです。一番面白かったのは薬の開発のところかな。最後の改心はちょっとよかった。
◎
グレッグ・ベア『ペトラ』
醜い意志と肉の子である「わたし」は世界の「革命」に力を貸そうとするものの・・・・・・。
なんか妄想力の強い作品。教会を中心とした話なので、西洋の人にはきっといろいろ読み取れるのだろうけれど、日本人なのでただその異様さに打たれます。ステンドグラスの覆いをひっぺがすところが、綺麗で好き。あと、こういう自分にすごく劣等感を持つ主人公にすごく感情移入するんですよねー。
○
ルイス・シャイナー『われら人の声に目覚めるまで』
休暇で南国の島に来ていたキャンベルは水中で人魚の姿を見る。彼はその正体を見極めようと探索を続けるが・・・・・・。
なんかありふれた物語といってはそれまでなんですが、最後の通廊に迷い込むあたりが、「パノラマ島奇譚」みたいで好きだったので。
◎
ジョン・シャーリー『フリーゾーン』
リッケンハープは近頃流行のミニモノに反感を抱く古典派ロック主義のバンドのボーカルだ。しかし、最近バンドメンバーはミニモノに傾きだしている・・・・・・。
好きです。音楽の疾走感みたいなのが文章でよく表現されていていいですねえ。孤独を望みつつバンドという「家族」形態に依存している主人公の性格がラストに表れていて、けっこういい作品だなあと思います。
◎
ポール・ディ=フィリポ『ストーン万歳』
〈ごみため〉で生活しているストーンはある日、何者かに捕まる。盲目の彼に目をプレゼントしてくれたその婦人はストーンにこの世界を判定してほしいというのだった。
こういう無学の者が拾われて・・・・・・式のお話は好きなのでよかったです。恋人が六十歳っていうのもなんだか異様でいいですねえ。いろんな知識を摂取していくストーンの様子が好もしい。
☆
ブルース・スターリング&ウィリアム・ギブスン『赤い星、冬の軌道』
ソビエトのコスモグラードに勤務するコロリョフはKGBの職員に毒を盛られる。本土の情勢も相まって彼らはある計画を立てるのだが・・・・・・。
うーん、まず共産圏の生活っていうのが非常によかったです。非合法の西側の音楽とかをこっそり聞いている様子とかね。さらにはスト、亡命計画とかお話に波があって、最後のあっけにとられるというか、妙に陽気なラストにつながっていくとことか、非常にいいですねえ。八十年代という時代が見えるようなお話でしょうか。
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ブルース・スターリング&ルイス・シャイナー『ミラーグラスのモーツァルト』
他次元の過去へ、企業の命を帯びてやってきたライス。ラジカセ片手のモーツァルトやマリー・アントワネットと友人や恋人となるのだが・・・・・・。
サイバー・パンク。やはり、人間が退廃している。他次元の過去だからメチャクチャしてもかまわないって、やっぱりサイバーパンクな論理。
総評:僕は1983年生まれ。『ニューロマンサー』が発表されたのは1984年。僕が1歳の頃にはこんなめくるめく小説がSF界を荒らし回っていたのでしょうか。六十年代のSFを読んでる僕にとってはこのギャップはすごいものがありますね。高校生の時に一時期SFというものにのめりこんで、その閉鎖的(というと語弊があるかもしれませんが)な大系の中に自分もSFものとして含まれているのが楽しかったんですね(仲間意識みたいな)。そんな中でもサイバー・パンクには仲間内でしかわからない「感覚」みたいなものがあって、それがありきたりな倫理観で訴える小説への「優越性」みたいなのを感じてたんではないかなあ、と今はなんとなく思います。よくも悪くも若い感性の作品だと思います。
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COMMENT
無題
ご指摘ありがとうございます。