時速80マイルで走っていたトマス・ブレインは、突然の自動車事故のため、頭はガラスを突き破り、胸にはハンドルが突き刺さり、背骨が折れ、苦痛を感じる暇もなくあっさりと死んだ。だが、目を覚ますと、そこは百年以上も先の未来。しかも、死から生き返らされたブレインは、幽霊やゾンビイが跳梁跋扈する超未来的世界で、恐るべきハンターに追いかけられるはめに・・・・・・話題のSFX映画『フリージャック』の原作ついに登場!
↑という説明ですが、映画のことは全く知りません。エミリオ・エステベス、アンソニー・ホプキンス、そして、ミック・ジャガーが出演という、よくわからないキャストの映画になっているようです。うーん、これは観てみなければ。
で、肝心の内容ですが、なかなか面白かったです。ただし、書きようによっては、もっと深くなりそうな気がするんですが・・・・・・。まあ、それは安部公房のお話でも読んで解消するとしましょう。
短編作家としてのシェクリイはスマートなお話を書く人というイメージがありましたが、この長篇は少しまとまりを欠いている感じがあります。部構成もなぜ分けたかがよくわからない。また、自殺者を殺すためのハンターという設定も、似たようなものを短篇で読んでいるので、新鮮味がないというのが正直な感想。ラストも「どうかなあ?」という感じでした。
肉体が他人と入れ替わるという設定の物語なのですが、自分の性格が肉体に束縛されていく(または、その肉体に対するイメージに束縛されていく)といったところが、面白かったです。また、ゾンビイという人々も登場します(彼らもアンデッドの性質を備えています)。SF的な思考実験が組み込まれていて、さすがシェクリイ。死者の霊魂を別の肉体に入れて甦らせるという発想自体はオカルト的なのですが、それになんだかんだと屁理屈をつけて、リアリティを獲得していくのがSFの醍醐味ともいえます。その点で、この作品は非常に楽しい作品で、古きよき時代のSFの味を堪能できると思います。
また、コールドスリープなどと同じで、未来社会に甦った現代の人間の適応という問題が扱われています。特にこれといって印象に残るような画期的未来ではないのですが、全体的に不道徳な感じは免れず、どちらかというとディストピア小説といった具合。それをむりやりハッピーエンドにまとめてしまったがために、僕は違和感を覚えたのかもしれません。
娯楽性とテーマ性を兼ね備えたなかなかに渋い作品でした。
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