時は21世紀――合法的な殺人ゲームが世界各国で行われて人気を呼んでいた。ゲームには、人種、国籍を問わず誰でも自由に参加できた。競争者は、追跡者として五回、逃亡者として五回、合わせて十回勝たなければならない――十人の人間を殺して、はじめて真の勝利者となるのだった。そして勝利者には、無限といっていいほどの社会的、経済的、政治的な権利が与えられる・・・・・・。この殺人ゲームがはじまって以来、21世紀の世界には、大きな戦争はなくなっていた。それが闘争本能にとって代替行為となったからである。
うら若き美貌の女キャロライン・メレディスは、九人めを殺害することに首尾よく成功した。追跡者の中国人が彼女を射ち損なった瞬間、豊かな乳房をおおったブラジャーに仕込んだ銃が火を吐き、追跡者を一瞬のうちに射止めたのだった。残るはあと一人。相手はすでに三回の勝負をものにしている強敵、ポルレッティと名乗る美男のイタリア人だった。彼こそは十人めの標的――彼女は勇躍ローマに飛んだ!(背表紙より)
ギャグあり、サスペンスあり、ロマンスあり。そして、気の利いたオチがあり。
読んだ後、ニヤリとしてしまう久々のこの感覚。さすが、ロバート・シェクリイです。
どちらかといえば、長編というよりは中編。総ページは136ページ。
殺人が合法化した未来というワン・アイデアを元に描いたこの作品。ストーリーは長々と背表紙のものを上に引用しています。ストーリーだけ語るのであれば、はっきりいって凡庸といってもいいと思うのですが、そこは作者の技量が違いを生んでいます。
例えば、キャロラインが10人目の獲物を殺害するところを、記録映画に撮ろうとするクルーの無線に、13才の少年のアマチュア無線が混線する場面(電車の中なのにちょっとニヤニヤしてしまいました)、殺人競技クラブで名人(マエストロ)の語る殺害を防ぐ方法とその上をいく殺害方法のアイディア、追跡者キャロラインと逃亡者ポルレッティの互いが敵とわかっていながらの甘い語らい。印象に残るシーンが脳裏にすぐ浮かびます。
要するに同じ材料を持ちながら、どう調理をするのかという問題です。この作品はワン・アイディアではあるかもしれませんが、味付けが抜群にうまい。物語の見せ方が大変にうまいのだと思います。
とはいえ「シェクリイは本質的にはやはり短編作家」だという解説者の意見に賛同してしまう僕としては、やはり、少し冗長ではあったかなという印象はぬぐえません。どうしても、あの短編を読んだ時のラストの切れ味の再現を期待してしまうのですから。そして、なにより長編だと一篇しか読めないではないですか。一作目を読んでラストの余韻に浸りながら、次の小説の題名から冒頭へと目を移していくあのワクワク感が、一篇では味わえないではないですか。
物語を読み終えてうーむと感嘆の声を漏らしながら、ちょっと物足りなさを感じるモヤモヤもある、そんな腹八分目の物語なのでした。
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