ロマンチック・コメディ的な物語。
今年に入っての初めてのSFです。最近は歴史の本やサッカーの本などに浮気をしており、本妻をほったらかしにしておりました。
本作は梗概にもあるように、コンピュータグラフィックスが進化した世界で、生身の俳優を使う必要がなくなり、昔の映画のリメイクばかりがなされている映画界を描いた作品です。その中で、フレッド・アステアに憧れる少女アリスと映画マニアの大学生トムの恋物語が展開されます。王道ですが、二人はひかれ合いながらも、すれ違いをくりかえし、古き良き時代の映画同様のストーリーが小説でも展開されるのです。
その「古き良き時代」とはミュージカル全盛の時代。フレッド・アステアの活躍した時代です。ミュージカルは1960年代に死んだと作中では語られていますが、僕はときどきその時代の映画を見たりするので、物語の展開が非常に楽しく、踊り手のステップも脳裏に浮かび、非常に楽しめました。なにより、主人公やヒロインよりも、脇役のヘッダという女性がすばらしく、僕は惚れてしまいました。「いい女」とは、彼女のためにあることばでしょう(概して僕はどういう物語でもこのような人物類型にやられてしまうのです)。
ジャンルとしては、いわゆるサイバー・パンクにも属する作品のように思えました。コンピュータにアクセスしての作品の改竄、合法的なドラッグなど、女性作家が描くためなのか、それとも、それこそミュージカル的なのか、それでも陰惨な雰囲気には陥らない健全さがありました。
ところで、主人公は映画作品の中のタバコやアルコールを削除することで、生活費を受け取っているのですが、過剰な自主規制を行わざるをえない映画界の事情がエスカレートしていくと、こうなっていくのだなあと興味深かったです。現在の状況をエスカレートしていくとこうなるぞ!というSFの醍醐味をこのあたりに感じました。
さて、コニー・ウィリスという小説家に初挑戦とあいなりました。この作品もローカス賞を受賞しているということですが、数々の賞を受賞している誉れ高い作品がほかにもたくさんあるようなので、それらの作品にも挑戦していってみたいと思います。『ドゥームズデイ・ブック』など、作品紹介を見ているとおもしろそうだなあ!
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