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SF読もうぜ(333) ◎光瀬龍「墓碑銘二〇〇七年」

 光瀬龍の短編。日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50 volume1』収録。

 名高い宇宙パイロットであるトジ。尊敬を集める存在である彼だが、一方で彼を忌み嫌う者もいる。遠征が失敗したときに帰還するのは、いつも彼だけだからだ。彼は仲間を見捨てたのだ。そういう見方で見る者もいる・・・・・・

 基地司令に呼び出されたトジは、第三次木星探検の任務を他の六名とともに与えられた。唯一の家族ともいえるペット、砂トカゲのペンペンに別れを告げ、トジは旅立った。冷凍睡眠から目覚めたトジを襲ったのは強烈な衝撃だった。事故だ!そして、何の手違いか、他のメンバーは覚醒しそうもない。トジはこの苦境に一人で立ち向かわなければならないのだ。このままでは木星に突入し、その先には死が待っている。なんとかカリストへの着陸を成功させたトジ。しかし、彼はある事実に気づいて愕然とする。冷凍睡眠装置には人間は乗っていなかったのだ。これはなにかの実験だったのだ。メタンの大気の吹き荒れる絶望的な状況の中、それでもトジは「何とかしてここから帰るのだ」と決意する。


 カッコイイ。

 宇宙パイロットに禁じられているタバコを吸う。孤独で誰ともつるまない男。ニヒルなものの見方。積み上げられた現場実績。ここから思い浮かんだ主人公は、しゃがれ声の渋いオヤジ。なんとなくちょっと若い頃のクリント・イーストウッドを頭に思い浮かべていました。

 作者は理科の先生だったそうですが、トジの飼っている砂トカゲのペンペンがかわいいです。まったくかわいく書かれていはいないのですが。ただ、孤独な男が心を許しているのがペットという状況に萌えるものがあるのです。しかも、イヌ・ネコではなく、爬虫類というのがまたいいではありませんか。

 木星で疾病のためにさなぎのように変化してしまった仲間たちをマジック・ハンドで海へ投げ捨てなければならなかったトジ。金星で精神に変調をきたした仲間たちを射殺しなければならなかったトジ。宇宙という厳しい環境の中、フロンティアを拓いていく航宙士たちのドラマ。男の世界です。そして、そんなトジを白い目で見る人々・・・・・・。「一人で生きて帰ってきた」罪悪感というものには、戦争の記憶をまだ引きずっているところもあるのだろうかと、1963年発表のこの作品になんとなく思ってしまいます。

 ちくしょう!奴らのためにも、おれは絶対にかえってこなければならなかったんだ。奴らの最期は、終焉の地はおれだけが知っているんだ。おれは奴らの墓碑銘なんだ

 この文章には泣かされます。

 後半、宇宙船《ダイアドD》で旅立ったトジはアクシデントに見舞われ、そして、乗組員が自分ひとりであるという真相にたどりつきます。ただ一人でカリストに降り立ったトジ。僕はてっきり、「俺もお前らのもとに行くよ」とか「俺もついに年貢のおさめどきだな、フフ・・・・・・」のようなラストを想定したのですが、ところがどっこい、トジは不屈の人だった。

 おのれの墓碑銘はおのれのためにだけ記される。そして死は、トジの心からなお遠かった。

これまでは、自らが墓碑銘で誰かのために帰らねばならなかった。だが、今度は自分のために・・・・・・。ああ、このラストは予想外で、じーんと心が痺れました。苦境に立たされたときに読み、勇気をもらいたい作品です。
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