ロボット子宮を用いて夢の世界を形作り、患者の神経症的風景の中にわけ入ってゆくことで、その異常性を治療する数少ない特殊な精神分析医―――シェイパー。レンダーはそのシェイパーのなかでも、もっとも優秀な一人だった。だがある日、シェイパーを志す盲目の美人精神科医ドクター・シャーロットの治療をひきうけたときから、運命の糸はおもいもよらぬ出来事を、つぎからつぎへと紡ぎだしてゆく・・・・・・。米SF界きっての才人ゼラズニイが、トリスタンとイゾルデの物語、ファウスト伝説などを素材に、持ち前の華麗な筆致を駆使して綴りあげた、絢爛たるイマジネーションの世界!
うーん、よくわからなかった。
これは西洋文学や歴史の素養がないと理解できません。トリスタン?イゾルデ?ウィンチェスター聖堂?まったく、知識がないので理解できませんでした。巻末にけっこう長い解説が収録されていますが、解説よりもむしろ僕は注釈をつけていただいていたほうが、ありがたかったです。
小説を読むのになんの努力もしないのは、こちらに非があるのかもしれませんが、そういう意味でいえばこれはエンターテインメントを目指した小説ではないのでしょう。治療のためのロボット子宮や、その内部で構成されるヴァーチャルリアリティ?の世界は、おおっと思いましたが、物語が神話や伝説などを理解していることを前提にしていて、少なくとも日本の読者には伝わりにくい内容だと思います。だから、解説よりも注釈が必要だと思ったのです。
ニューウェーブの作品の悪いところは、小説の完成を目指すがゆえに、読者の理解しにくい作品になってしまうところなのでしょう。もちろん、よい面も感じているのですが、黄金時代のSFと比べると、やはり何か脇道にそれているような感が否めません。ただ、それは「SFに何を求めているのか?」という読者の読みたいものの傾向、期待値の反映であると思うので、「いい」「悪い」の問題というよりも、好みの問題に最後には行き着いてしまうと思います。
というわけで好ましくないと思う面は挙げたので好きなところを。まず、ミュータント犬の登場。これは、ステープルドンの『シリウス』の影響がモロにあると思うのですが、ニューウェーブがそうした思索的なSFを志向していることの表れでしょうか。野生的になった犬が狩を行うところなど、『シリウス』そのままで、なかなか感じ入るところがありました。
それから、座標を打ち込むと目的地まで行ってくれる自動車。こんな車があったらいいなあと思うのは、僕がペーパードライバーだからです。
そして、盲目の女性が視覚認識をロボット子宮内で行う様子ですね。レンダーが世界を操る様子も、運命に弄ばれた世界への復讐ととれる様子とか、巧いなあと思いました。
なんだ、けっこう楽しんでるじゃん、と今この記事を書いてるうちに思えてきました。
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