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SF素人が空想科学小説に耽溺するブログ。

モラトリアム

   

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スティーヴン・キング「グリーン・マイル1 ふたりの少女の死」(新潮文庫)

時は1932年、舞台はアメリカ南部のコールド・マウンテン刑務所の死刑囚舎房。この刑務所で死刑囚が電気椅子にたどりつくまでに歩く通路は、床が緑のリノリウムであることから、通称「グリーン・マイル」と呼ばれている。ここで起こった驚くべき出来事とは?そして電気椅子の真の恐ろしさとは?毎月1冊ずつ全6巻の分冊で刊行され、全米を熱狂させた超ベストセラー待望の第1巻!(新潮文庫:紹介文より)


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村上春樹「螢・納屋を焼く・その他の短編」(新潮文庫)

秋が終り冷たい風が吹くようになると、彼女は時々僕の腕に体を寄せた。ダッフル・コートの厚い布地をとおして、僕は彼女の息づかいを感じとることができた。でも、それだけだった。彼女の求めているのは僕の腕ではなく、誰かの腕だった。僕の温もりではなく、誰かの温もりだった…。もう戻っては来ないあの時の、まなざし、語らい、想い、そして痛み。リリックな七つの短編。(新潮文庫:紹介文より)

 短編集。収録作「螢」「納屋を焼く」「踊る小人」「めくらやなぎと眠る女」「三つのドイツ幻想 1 冬の博物館としてのポルノグラフィー 2 ヘルマン・ゲーリング要塞 1983 3 ヘルWの空中庭園」

 自分の内部にあるものが、他人にはそのまま伝わらない、理解してもらえない、あちらに届かない。あるいは理解できない、こちらに届かない。その哀しみ。

 特に「螢」「めくらやなぎと眠る女」は長編「ノルウェイの森」に再登場するし、後者は朗読用に書き直されてもいるので(『レキシントンの幽霊』収録)作者の思い入れを感じます。

 コミュニケーションの問題を中心に読んだものが「螢」「納屋を焼く」「めくらやなぎと眠る女」、イメージの豊かさで楽しんだものが「踊る小人」「三つのドイツ幻想」。特に後者の二つの作品では、象工場の様子、小人のダンス、鎖に結び付けられて屋上に浮かぶ空中庭園などを頭の中に思い浮かべて遊ぶことができた。

 「めくらやなぎと眠る女」はバージョンの違いを見つけるのも楽しいし、何回読んでも飽きないし、やっぱり面白いんだと思う。

SF読もうぜ(370) 小松左京「召集令状」(角川文庫)

同じ課の新入社員武井に、ある日、召集令状が届いた。「たちの悪いいたずらだ」と気にも止めずにいたのだが、次々と男子社員に令状が届きだした。そして、彼らはそろって無断欠勤をはじめて、ある日「戦死公報」が届くようになる。2週間で失踪した若者はなんと7,500人。やがてその赤紙は十代の少年にも届くようになり……(『召集令状』)。表題作ほか計8編の傑作短編を収録。(角川書店:紹介文より)


 収録作:○「戦争はなかった」◎「二〇一〇年八月十五日」☆「地には平和を」○「春の軍隊」○「コップ一杯の戦争」○「夢からの脱走」☆「お召し」◎「召集令状」

 あの戦争を二度と繰り返すな!
 この本が発する強いメッセージはそれに尽きる。
 「二〇一〇年八月十五日」は戦争の記憶が風化した日本を描いた作品だが、身につまされるものがある。この本には小松左京自身が体験した戦争が描かれている。それは、ここまで悲惨なんだよなと震えがくるほどだ。身の回りで起きる空襲、偶然で分けられる生と死、不条理な暴力と世情の混乱。
 戦争体験がすべての作品に陰を落としている。特に印象的なのは「地には平和を」。ポツダム宣言を受諾しなかったら日本はどうなっていたのか?自身をモデルに描き出した世界は陰惨で救いようがない。SFでしか描けない作品を世に問おうとした作者の姿勢そのものに胸を打たれます。

吉本ばなな「白河夜船」(新潮文庫)

いつから私はひとりでいる時、こんなに眠るようになったのだろう―。植物状態の妻を持つ恋人との恋愛を続ける中で、最愛の親友しおりが死んだ。眠りはどんどん深く長くなり、うめられない淋しさが身にせまる。ぬけられない息苦しさを「夜」に投影し、生きて愛することのせつなさを、その歓びを描いた表題作「白河夜船」の他「夜と夜の旅人」「ある体験」の“眠り三部作”。定本決定版。


 収録作「白河夜船」「夜と夜の旅人」「ある体験」の三篇。

 読んでいて少女漫画的だな、と思う。吉田秋生の細い線を思い浮かべるような繊細さ。文体も登場人物も。
 昨日の村上春樹の「眠り」についての作品を続けて読んで、よけい眠るという行為がわからなくなった。吉本ばななの作品では、眠りの状態から目覚めるシーンがとても多いように感じる。

 三篇共に人の死が介在する中で、周囲の人たちの心がどう救済されていくかという話だったように思う。最後に光がさしてくる。そんな作品が僕は好きだ。読後に元気をもらえる、がんばろうと思える、そういう作品だった。

 眠りの中のようなぼんやりとした感覚で、小説の中では不思議が起こる。幽霊(?)の登場、兄と瓜二つの少年の登場、死人との邂逅・・・。小説とは夢のようなもので、没入している間は現実を忘れてそこに紛れもなく生を感じている。夢が僕らの願望や贖罪なんかを解決してくれるように、物語が僕らを癒してくれることもある。

 この作品は現実に戻った僕に力を与えてくれた。

村上春樹「TVピープル」(文春文庫)

不意に部屋に侵入してきたTVピープル。詩を読むようにひとりごとを言う若者。男にとても犯されやすいという特性をもつ美しい女性建築家。17日間一睡もできず、さらに目が冴えている女。―それぞれが謎をかけてくるような、怖くて、奇妙な世界をつくりだす。作家の新しい到達点を示す、魅惑にみちた六つの短篇。


 短編集。収録作は「TVピープル」「飛行機」「我らの時代のフォークロア」「加納クレタ」「ゾンビ」「眠り」の6作。

 ぼんやりと形にはならない不安。或いは欺瞞。自分が無意識の世界では悟っているのに、形にしては受け取りたくないもの。
 そういったことを読んでいて意識していた。僕にとってはホラーの感覚で受け取れる世界。頭の中にスルスルと入ってくる文体だけに、余計にいろいろと考えることが多い。とにかく1つの話の1つの部品で、さまざまな想念が渦巻いてくるというのは、この人の作品でしか味わえない気がする。

 以前にも考えたけれど、奇妙なできごとを自然に受け取れるというのは、いかに世界を構築するのがうまいかとか、そのための語り口の巧妙さ、作品を書く技量のすごさだと感じるのです。
 奇妙に小さな人間が僕の家にTVを置いていく話。ステレオタイプの優等生に起こる処女性の問題。犯されやすい女の物語。無意識の独り言を知る物語。ループする夢の中にいる女。眠れなくて夜な夜な徘徊する女の物語。すべてが幻想的で切なくて、怖い。
 特に日常の瓦解を描く「TVピープル」「眠り」のラストは心が寒々としてくる。でも、読んでいる最中、読んだ後、僕の心は癒されている。不思議だけれど。

 不思議でちょっと怖い、すてきな本でした。

サンキュータツオ「ヘンな論文」(角川学芸出版)


珍論文ハンターのサンキュータツオが、人生の貴重な時間の多くを一見無駄な研究に費やしている研究者たちの大まじめな珍論文を、芸人の嗅覚で突っ込みながら解説する、知的エンターテインメント本!(KADOKAWAオフィシャルサイトより)


 お気に入りを列挙してみると・・・。

 「河原町のジュリー」という伝説的ホームレスの研究。
 公園の土手に座っているカップルの観察の論文では「覗きでは!?」という鋭いツッコミが冴えわたる。
 不倫男をインタビューし、データ収集。
 女子高生と教師の麗しい物語を描いた「コーヒーカップの音の科学」。
 共学に変わって男子の目があったら女子の生態はどうなる?という調査。
 「元近鉄ファン」の生態調査。
 胸の揺れとブラのずれ。

などなど、どうしてそのポイント?というようなタモリ倶楽部的面白さのオンパレード。誰の頭にも浮かぶ「どうして先生(或いは研究者)はそれを・・・?」という謎を解いていくミステリ的な興奮が各章に立ち昇ってくる。しかし、いずれも読んでいる途中はニヤニヤしていながらも、終わりにはフムフムとうなずいている。それは、学問とは何かというテーマの根源を突いているからでしょう。著者はお笑い芸人でありながら、日本語学者という学究の徒。学問を笑いに変換しながらも、その本質を見失ってはおらず、有難く、何かを教わった気分になれるすてきな本でした。

爆笑問題「日本文学者変態論 日本史原論」(幻冬舎)

日本の文豪たっぷり24人分!偉大な彼らの人生と作品を調べてみたら、みんな変態で破綻者ばっかりだった。そんな人達が今はなぜ“文豪”なのか。その秘密を太田光が漫才形式で読み解く!!(幻冬舎:紹介文より)

 大好きな爆笑問題の日本史原論シリーズ。

 文士のスキャンダラスな部分を抽出。
 泉鏡花は潔癖症でハエが大嫌い。それで家の中の食べ物には筒がかぶせられていた。
 小学生で「二君に仕えず」といった司馬遼太郎。
 谷崎潤一郎と佐藤春夫の奥さんを譲るという約束でこじれる小田原事件。
 太宰の四度の自殺未遂。
 芥川は「吾輩も犬である」というパロディを書いていた。
 藤村が姪と不倫して・・・というのは有名だし。

 いずれも「へー」ボタンを連打したくなるトリビアばかり。(ちょっと古いかな?)
 買ってから少し寝かしてあったので、ネタの鮮度は今読むと落ちているのですが、それも含めて味になっています。やたら、「船場吉兆」を連発しているので、その時期に出た本なんだなあとわかります。

 あとがきでは、時代の異物である文豪が世界とつながるための手段として表現を選んだこと、そして世界とつながるために凶行に起こす人もいると述べてあります。大槻ケンヂも同じようなことを書いていたけれど、すごく共感してしまいました。数日前に逮捕された爆破予告で出頭していた青年も同じような気持ちだったのかなあ。

井上ひさし「黄金の騎士団(下)」(講談社文庫)

実は、早老症の天才少年を核とする少年だけの投資家集団だった“黄金の騎士団”。彼らの目的は、莫大な資金を元に、子どもが自治するユートピアをつくることだった。ところが、シカゴ市場で快進撃を続ける“騎士団”の前に、世界的な大財閥オッペンハイマー家の総帥が立ちはだかる。未完の痛快経済小説!



井上ひさし「黄金の騎士団(上)」(講談社文庫)

地上げの脅威に晒される、四谷の孤児院「若葉ホーム」。肩を寄せ合って暮らす6人の少年たちの元に、ある時から“黄金の騎士団”と名乗る謎の人物名義の生活資金が届けられる。認知症で徘徊癖のある院長先生に代わって、目付け役になったホームのOB外堀公一は、“騎士団”の驚くべき正体を突き止める!?

 とっても楽しい。


SF読もうぜ(369) ロバート・J・ソウヤー「ゴールデンフリース」(ハヤカワ文庫SF)

宇宙旅行都市計画の一環として、47光年かなたのエータ・ケフェイ星系第四惑星のコルキスをめざすバサード・ラムジェット宇宙船〈アルゴ〉。コンピュータ“イアソン”が完璧に制御しているこの船で、一人の女性科学者が死亡した。事故死?自殺?それとも…。自殺だというイアソンの主張に疑いを抱いた前夫が単独で調査を始め、困難の末にあばいた驚愕の真相とは?“感情を持つコンピュータ”をリアルに描いた話題作!(ハヤカワ文庫SF:紹介文より)


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